「そんなバカな。あり得ない。」
男は車で動けなくなっていた。
電卓に出た結果が、あまりにも衝撃的だったからだ。
いつも買っていたチューハイのロング缶は、
「損をしていた」事に気づいてしまったのだ。
1.5倍は勘違いと気づいたあの夜
仕事帰りにスーパーへ寄り酒を買う。
いつもと何も変わらない、何気ない日常。のハズだった。
車を停め、ふと頭をよぎる言葉
「今月も、節約しなきゃな…」
最近は酒の量が増えていた。
ストロング系チューハイを好んで飲むが、350mlでは物足りなくなり、500mlのロング缶を買うようになっていたのだ。
お気に入りは、「麒麟特製レモンサワー」だ。
若い頃はブドウや桃などの甘いサワーばかり飲んでいたが、最近はレモンやグレープフルーツの柑橘系が好きだ。歳をとったということだろうか。
「今までは98円だったけど、ロング缶だと148円か。」
男は金額に敏感だった。
給料日に赤字が確定するような生活をずっと続けていれば、そうもなる。
「まあ、1.5倍の量って考えると、金額的にも妥当だよね」
理由は大事だ。「お得に買った」という事実は、「無駄遣いではない」と自分を都合よく納得させられるからだ。
ん?ちょっとまてよ。
350mlの1.5倍って、、、500mlじゃないよな。
疑問に思った時には、既にスマホを取り出し電卓を構えていた。
500mlって、350mlの何倍だ?
叩きだした結果は、
そんな、、、バカな、、、、、
慌てて叩きなおすが、目の前にある数値は同じだった。
1.42…
何て事だ。完全に、思い込みだった。
この数値を見たとき、男は既に気づいていた。
1.5倍…じゃない。
ロング缶は割高だったのだ
350ml… 98円 ならば
500ml…139円 が妥当な値段のハズだ。
なのに、148円でいつも買っていたのだ。
俺は、、、騙されていたのか。
ロング缶は全て「損」なのか?
重い足取りで酒コーナーへ向かう男。
他に買う食材もあったはずだが、そんな事は既にどうでもよくなっていた。
「ロング缶は損なのか!?」
頭の中はこれだけだった。
いつもの酒を見る。
350ml→98円。500ml→148円。
はい!負け!!
いつもと同じ値段。このロング缶は、損だ。負けだ。
勝ち負けの意味がわからないが、男の中では負けのようだ。
次の商品を見る男。買う気もないのに値段を見る。
350ml→108円。500ml→158円。
「計算できねぇ、、、」
仕方なく電卓をたたく。他人の視線など、もうどうでもいい。
これも負け!!!
このロング缶も、損じゃないか。。。
なんてことだ。まとめ買いはお得だ。ボリュームディスカウントだ。絶対的な事実であり、疑いもしてこなかったのに、
現実は、違ったのだ。
賢者、現る
一体このスーパーに何をしに来たのか。
今までずっと損をしていた、という悪魔の言葉に侵され、男のHPは枯れる寸前だった。
「ロング缶でもお得」という事実を、この目で確認したかった。
ただ、それだけだった。
陳列されたチューハイを端から端へ眺める。
人目につきにくい端に、賢者はひっそりと佇んでいた。
「くらしモア」ストロングチューハイ。
いわゆるプライベートブランド品だ。
350ml→88円
価格は最強だ。恐る恐るロング缶の価格を見る。
500ml→118円
「118円!勝てる!これは勝てるぞ!」
電卓を叩く男。88×1.42、、、
出てきた結果は、124.9
「勝った!!!!!!!」
このチューハイは、ロング缶の方がお得だ!
求めていた結果が、ついに現れた瞬間だった。
だがしかし、男はこのチューハイをあまり買わない。
賢者チューハイは、男の口に合わなかった。
勝った意味は、あったのだろうか?
コンビニに現れた、まさかのフェアマン
コンビニは便利だが、高い。
きっと誰もが思う事。男もまた、同じだった。
ただ、セブンイレブンで売っているストロング系チューハイが100円という絶妙な値段であることは認識していた。
味も全然悪くない。
スーパー 98円
コンビニ 100円
この2円の差は絶妙だ。
スーパーで買うべきだが、2円ならいいか。と自分を許せてしまうし、実際たまに買っていた。
先日、スーパーのロング缶が割高と気づいた男は、ロング缶の値段を見る事がくせになっていた。
重要なのは「1.42」この数値だ。
350ml缶の値段を1.42倍する。
ロング缶の値段がその数値以下ならば「勝ち」それ以上ならば「負け」だ。
勝ち負けの意味があるのか?と疑問に思うが、男はそれしか考えていない。
セブンイレブンのチューハイはシンプルだ。
350ml→100円。
つまり、ロング缶が142円以下なら「勝ち」。それ以上なら「負け」となる。
陳列されているロング缶に視線を向けると、、、
なんと!142円!
妥当。超、妥当。
最高にフェアマンじゃないか。
勝ちでも、負けでもない。妥当な値段。紳士な値段とも言える。
すごいぞ、セブンイレブン
その男の末路:ロング缶の勝敗分岐ポイント
「好きなの買って飲め。」
おっしゃる通り。その通りです。それが一番です。
ぶっちゃけこんな事考えるなんで、人生という時間を大変無駄にしております。
ですが、男は止まりません。
検証を重ねた結果、
ロング缶がお得かお得じゃないかは、商品や店によって異なる
という、当たり前すぎる結論にたどり着いたようです。
なのに男は、
「俺はお金に余裕がない。だからお得に買い物しなきゃいけないんだ」
という、意味不明な使命感に囚われています。
ちょっとかわいそうです。
ていうか、そもそも酒買ってる場合か?という疑問は、そっと胸にしまっておいてください。
そんな、男の末路。
何かツール的なものを完成させたようです。
「ロング缶の勝敗分岐ポイント測定ツール~~~~~」
ロング缶の値段がお得かそうではないか判断するツールのようです。
会計用語で損益分岐点というものがありますが、似たようなもんとかなんとか。
解説:まず、販売されている350ml缶の価格を確認する。次に、その価格に対応する、500缶勝敗分岐価格が販売価格以上か以下かを見る。
例:350ml缶が98円で売ってる。同じ商品の500mlロング缶は148円で売ってた。
→下記表では500缶勝敗分岐価格は139円の為、販売されていた148円は割高となる。つまり、ロング缶を買ったら負け。
【ロング缶の勝敗分岐ポイント測定ツール】
350缶 500缶 勝敗分岐価格
88円 125円
98円 139円
108円 153円
118円 168円
128円 182円
138円 196円
350缶が上記価格以外だったらどうするの?の疑問については、「計算して」らしい。
突っ込み所は山ほどあるが、どうやら男は満足しているようだ。
ロング缶を片手に、既に酔っている。
もう、ほっておこう。
おまけ:損得勘定もいいんですけど
ごちゃごちゃ言わずに、
お酒は楽しく飲むのが一番です!
最後まで、ありがとうございました。